お酒を飲み過ぎると、肝臓や胃腸に対して悪影響を及ぼすことは多くの方がご存知だと思います。
また、少量から中等量の飲酒であっても、肥満、高脂血症、高血圧症などの生活習慣病の原因となることがあります。
会社や自治体の定期健康診断で血液検査の異常を指摘され、健康のために飲酒を控えるよう指導された経験のある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

しかし、アルコールは身体の健康だけでなく、不眠、意欲低下、集中困難、記憶力の低下、イライラや憂うつなどの気分の変化といったこころの健康にも大きく影響することは、意外と知られていません。

アルコールは不眠の原因になる

日本では昔から「寝酒」という習慣があります。
これは、寝る前にお酒を飲むことで深い眠りを得ようとするものです。
寝酒の習慣がなくても、お酒を飲むと眠くなる経験をされた方は多いと思います。しかし実際には、アルコールを摂取した直後は眠気よりも気分の高揚や興奮が生じることが多いとされています。

仲間と楽しくお酒を飲んで気分が高揚した経験を思い出すと、想像しやすいかもしれません。

そのため「寝酒をすると眠れる」と思われがちですが、かえって寝つきを悪くする原因になることも少なくありません。

飲酒が眠気を妨げる理由

アルコールは体内に吸収された後、時間をかけて分解されます。
睡眠中に血中アルコール濃度が低下すると、アルコールの離脱症状が起こることがあります。
飲酒量が多くなると離脱症状により

  • 心拍数の上昇
  • 発汗
  • 脱水症状
  • 低血糖

などの症状が生じ、それらの不快感によって睡眠中に目が覚めてしまうことがあります。
さらに、アルコールが分解される際に生じるアルデヒドによって、吐き気などの不快な症状が起こることもあります。
普段より多く飲酒した夜に、夜中や早朝に目が覚めて気分が悪くなった経験のある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

少量のアルコールであっても

  • 睡眠が浅くなる
  • 中途覚醒が増える
  • 睡眠の質が低下する

ことが知られています。
アルコールを飲んだ翌朝に熟睡した感じが少ないのは、このためです。
また、アルコールには利尿作用があるため、夜間頻尿も不眠の原因になります。

多量の飲酒が続くと不眠に加えて

  • 日中の眠気
  • 集中困難
  • 意欲低下
  • 抑うつ気分

などの精神症状が現れることがあります。

アルコールによる認知機能低下とうつ症状

アルコールにより集中力や記憶力などの認知機能が低下することが知られています。
中等量以上の飲酒習慣が長年続くと

  • 物覚えが悪くなる
  • 物忘れが増える
  • 不注意によるミスが増える

といった変化がみられることがあります。

研究では、標準的な飲酒量であっても

  • 一部の言語機能の低下
  • 記憶に関わる海馬体積の減少
  • 大脳白質の形態的変化

が生じることが報告されています。

アルコールが直接的に抑うつ症状やうつ病を引き起こす可能性も指摘されています。
連続的な飲酒によって

  • 抑うつ気分
  • イライラ
  • 不安

など気分の変化が生じることがあります。

実際に、大量飲酒を数週間続けた結果

  • 強い抑うつ気分
  • 罪業感
  • 不安感

が出現し、禁酒後に抑うつ症状などの精神症状が改善したという報告があります。

また、精神疾患の既往のない一般人口を対象とした研究では、飲酒量の多い女性でうつ病のリスクが高いことも報告されています。

忙しい仕事の後に飲酒し、翌朝に倦怠感や意欲低下を感じる場合、その原因を仕事の疲れと考えてしまうことが多いのかもしれません。
しかし実際には、飲酒が仕事による疲労感に拍車をかけ、意欲低下や集中力低下、抑うつ気分を悪化させていることもあります。

若い頃は多量の飲酒でも平気だった方でも、年齢とともにアルコールの影響を受けやすくなります。特に50歳を過ぎると、その影響を強く感じる方が増える印象があります。

飲酒による精神症状の悪化・再発

精神疾患のある方では、飲酒によって病状が悪化することがしばしばみられます。
病状が安定してくると飲酒を再開してしまい

  • 不眠
  • 不安
  • 抑うつ症状
  • 意欲低下

などの症状が再び悪化することがあります。
また、飲酒により服薬が不規則になり、安定していた病状が悪化することもあります。
ようやく治療の効果が出始めた時期や、仕事に復帰できたタイミングで飲酒を再開し、病状が悪化し日常生活や仕事に支障が出てしまうのは非常に残念なことだと思います。

向精神薬とアルコール併用の危険性

服薬中に飲酒することは非常に危険です。
アルコールと向精神薬を同時に摂取するとアルコールや薬物の鎮静作用が高まり

  • 強い眠気
  • 集中力低下
  • 傾眠
  • 呼吸抑制
  • 意識障害
  • 健忘

などが生じることがあります。

一方で、少量でも習慣的な飲酒によって

  • 睡眠薬
  • 抗不安薬

の薬物効果が低下し、これまで効いていた薬の量では効果が弱まり、効果を求めるため服薬量が増えてしまうことがあります。

アルコールと自殺との関連

アルコールと自殺には強い関連があることが知られています。
海外では

  • アルコール販売量の制限
  • 最低飲酒年齢の引き上げ

によって若年者の自殺率が低下したという報告があります。

また、大量飲酒が10年以上の長期にわたると、自殺リスクが数倍に上昇することが報告されています。アルコール乱用や依存は将来における自殺リスクを高めることの重要な危険因子です。
さらに、アルコール依存症と双極性感情障害が併存する割合は30%以上とされており、この場合は自殺率が著しく高まることが知られています。

節酒・禁酒による精神症状の改善

アルコールにより

  • 不眠
  • 集中力低下
  • 倦怠感
  • イライラ
  • 抑うつ

などの症状が生じ、深刻になると不眠症やうつ病と診断されることがあります。
このような場合、最も効果的な対処法は節酒または禁酒です。

飲酒の問題について丁寧に説明し、禁酒を実践していただくことで、抗うつ薬等を投薬せず比較的短期間で症状が改善し社会に復帰されたケースも少なくありません。

ICD-10の研究用診断基準

有害な使用

  1. 物質の使用が原因となって(あるいはそれに相当に影響されて)、判断力の障害や行動上の機能不全を含む身体的あるいは心理的な害が生じたという明らかな証拠が存在しなければならない。この害は、対人関係における能力低下や逆の結果をもたらすことがある。
  2. 害の性質は、明確に同定しうる(かつ特定される)こと。
  3. 使用パターンは1か月以上持続しているか、あるいは過去12か月以内に繰り返し出現していること。
  4. 障害は同時期に、同じ薬物に関連した他の精神あるいは行動の障害の基準を満たさないこと。

依存症候群

  1. 以下のうち3項目以上が、1か月以上にわたり同時に生じていたか、あるいは持続期間が1か月未満であれば、過去12か月以内に繰り返し同時に生じたこと。
    1. その物質を摂取したいという強い欲望あるいは切迫感。
    2. 物質摂取行動の開始、中止、使用量をコントロールする能力の障害。次のことがその証拠となる。物質の摂取が、もともと摂取するつもりであった以上に大量あるいは長期間であることが多い。あるいは、物質使用を減量あるいはコントロールしようという持続的な欲望、あるいはそうした努力が不成功に終わること。
    3. 物質使用を減量あるいは中断した際の生理的離脱状態。その証拠となるのは、その物質に特徴的な離脱症候群をみること、あるいは離脱症状の緩和あるいは回避のために同じ(あるいは密接に関連した)物質を使用することである。
    4. 物質の効果に対する耐性が生じていることの証拠、例えば、中毒あるいは望まれた効果を得るために必要な物質量が明らかに増加している、あるいは物質の同量を連続的に使用した時、その効果が著しく減弱している。
    5. 物質使用に関するとらわれ。その証拠となるのは、重要な代替の楽しみ事や興味事が物質使用のために放棄される、あるいは減少することや、その物質を入手する、摂取する、あるいはその効果から回復するための活動に、多大な時間が費やされることである。
    6. 有害な結果の明らかな証拠があるにもかかわらず、持続的に物質を使用すること。その証拠となるのは、患者が害の性質と程度を実際に自覚している、あるいは自覚していると想定される際の連続的使用である。

アルコール離脱状態

  1. 離脱状態*1の全般基準を満たさなければならない。
  2. 以下の徴候のうち、3項目以上が存在しなければならない。
    1. 舌、眼瞼、あるいは伸展した手の振戦
    2. 発汗
    3. 悪心、嘔気、嘔吐
    4. 頻脈あるいは高血圧
    5. 精神運動焦燥
    6. 頭痛
    7. 不眠
    8. 倦怠感あるいは脱力
    9. 一過性の視覚性、触覚性あるいは聴覚性の幻覚あるいは錯覚
    10. 大発作性けいれん

*1離脱状態

  1. 繰り返しの、通常長期および/または高用量の物質使用後、最近その物質の使用を中止あるいは減量したという明らかな証拠が存在すること。
  2. 症状と徴候は、その物質あるいは複数の物質による離脱状態の既知の症状と矛盾しないこと。
  3. 症状と徴候は、物質使用と関連しない医学的障害によって説明されず、また他の精神障害や行動障害によっても、十分に説明されないこと。

DSM-5の研究用診断基準

アルコール使用障害

  1. アルコール問題となる使用様式で、臨床的に意味のある障害や苦痛が生じ、以下のうち少なくとも2つが、12か月以内に起こることにより示される。
    1. アルコールを意図していたよりもしばしば大量に、または長期間にわたって使用する。
    2. アルコールの使用を減量または制限することに対する、持続的な欲求または努力の不成功がある。
    3. アルコールを得るために必要な活動、その使用、またはその作用から回復するのに多くの時間が費やされる。
    4. 渇望、つまりアルコール使用への強い欲求、または衝動。
    5. アルコールの反復的な使用の結果、職場、学校、または家庭における重要な役割の責任を果たすことができなくなる。
    6. アルコール作用により、持続的、または、反復的に社会的、対人的問題が起こり、悪化しているにもかかわらず、その使用を続ける。
    7. アルコールの使用のために、重要な社会的、職業的、または娯楽的活動を放棄、または縮小している。
    8. 身体的に危険な状況においてもアルコールの使用を反復する。
    9. 身体的または精神的問題が、持続的または反復的に起こり、悪化しているらしいと知っているにもかかわらず、アルコールの使用を続ける。
    10. 耐性、以下のいずれかによって定義されるもの:
      1. 中毒または期待する効果に達するために、著しく増大した量のアルコールが必要。
      2. 同じ量のアルコールの持続使用で効果が著しく減弱。
    11. 離脱、以下のいずれかによって明らかとなるもの:
      1. 特徴的なアルコール離脱症候群がある(アルコール離脱の基準*2)。
      2. 離脱症状を軽減または回避するために、アルコール(またはベンゾジアゼピンのような密接に関連した物質)を摂取する。

*2アルコール離脱

  1. 大量かつ長期間にわたっていたアルコール使用の中止(または減量)。
  2. 以下のうち2つ(またはそれ以上)が、基準Aで記載されたアルコール使用の中止(または減量)の後、数時間~数日以内に発現する。
    1. 自律神経系過活動(例:発汗または100/分以上の脈拍数)
    2. 手指振戦の増加
    3. 不眠
    4. 嘔気または嘔吐
    5. 一過性の視覚性、触覚性、または聴覚性の幻覚または錯覚
    6. 精神運動焦燥
    7. 不安
    8. 全般性強直間代発作
  3. 基準Bの徴候または症状は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
  4. その徴候または症状は、他の医学的疾患によるものではなく、他の物質による中毒または離脱を含む他の精神疾患ではうまく説明されない。