現在日本においてがんで亡くなる人の数は全死亡者数の約3割を占めています。がんは日本人の死因の第1位となっており、その数は毎年増加しています。
がんになると様々な身体症状が現れますが、同時に精神的苦痛も現れます。がん患者において20~40%がうつ病を合併することや、うつ病の発生率は一般と比較し2倍以上になることが報告されています。
うつ病になってしまうと、がんという体の病気を抱えながら精神的苦痛とも闘うことになります。がん患者さんが自殺する危険率は一般人口より高いことが報告されており自殺に至るケースも少なくありません。
本ページでは、働く人ががんと診断され、身体的や精神的問題、さらに生活上の諸問題を抱えた場合について考えたいと思います。
Cさんは藤沢市内で働く53歳の男性会社員です。
妻と、高校生と大学生の二人の息子と4人で暮らしています。30歳代より時々喘息発作はありますが、その他に持病はありません。
ある年の会社の健康診断で肺の異常な陰影を指摘されました。心配になったので近くの総合病院で検査を行ったところ、肺がんであることが分かりました。幸い他の臓器への転移の可能性は少なく比較的早期がんでした。手術が可能であることから肺の手術を行いました。術後の合併症は無く順調に回復し、手術から1か月後に退院となりました。入院中体を動かすことが少なかったため退院時には体重は5キログラムも減っていました。歩くと息が切れてしまい、体力は以前より随分落ちていました。「復職するまでにはさらに1か月程度はかかるでしょうが、なるべく体を動かして体力をつけてください。」と呼吸器外科の主治医から助言されたので、自宅で療養しながら体力を戻すため毎日少しずつ散歩することにしました。
ところが、思っていたより疲労感が強く10分ほど近所を歩くと、自宅ではしばらく横になって休んでしまう状態でした。食欲は少なく、退院後1カ月経っても体重はあまり増えませんでした。さらに、喘息発作のときに感じられるような息苦しさや何とも言い難い胸の不快感も出現しました。しばしば夜中に目が覚めて、その後一睡もできない日が続きました。主治医に相談したところ同じ病院の精神科外来を勧められ受診することになりました。
Cさんは精神科医師に肺がんの再発や転移の不安の他に、以前と同じ職場に戻れるかという不安を話しました。がんになったことで会社や家族に迷惑をかけていることや子供の将来の不安も話しました。さらに、自分が社会や家族にとって意味のない存在になっているのではないかと考えてしまうことを打ち明けました。精神科医師より「がんを抱えている患者の皆さんは、常にがんの再発や悪化の不安を抱えています。また、Cさんの場合は復職や経済的不安が負担となり、精神的に落ち込んでいる状態だと思います。今後がんの治療を行う上で精神状態を安定させることは非常に重要なので、精神科の治療を行うことが必要だと思います。」と説明されました。
Cさんは不眠を伴ううつ病と診断され、抗うつ薬と睡眠薬を処方されました。がんの治療を行いながら精神科にも通院することになりました。
がんの患者さんには様々な身体症状が出現します。がんの手術が終わってからも息が苦しい、腰が痛い、吐き気がする、食欲がない、体がだるい等の症状で苦しむことがあります。身体症状が何時になったら良くなるのか、がんが再発していないかなどの不安を抱えて生活することになります。治療が長期化し仕事を休んだため、収入が減り悩む方も少なくありません。検査や治療等のため高額な医療費が毎月生じることもあります。がん患者さんは病気の不安ばかりでなく、経済的な不安を感じながら生活することになります。
しかし、これら経済的な問題は全く解決できないことではありません。 高額な医療費の負担を軽減できる高額療養費制度があります。病気休暇が長期に及んだため給与が減額されたり、支払われない場合には、傷病手当金という生活費の一部を補償する制度があります。
これらの制度の活用はがんに伴う経済的な心配や不安を少しでも取り除く現実的な対処法です。制度の詳細については、各企業の担当者や健康保険組合にお尋ねください。
がんと診断され治療が始まると、会社だけでなく家庭の役割を十分に果たせなくなります。 未成年の子供がいる場合や、介護の必要な親がいる場合など状況はその人により様々ですが、子供を育てている親として、働いて家族を養っている親として、あるいは介護を担う子供としてなどこれまで担ってきた役割が果たせなくなります。
Cさんのように社会や家庭での役割が十分果たせないことに対して、職場や家族に強い後ろめたさを感じ自分自身を責めてしまうことも少なくありません。過剰な自責の念から病的な抑うつ気分が生じ、自分の生きる価値を見失うことさえあります。
がん患者さんがこのような状況に陥る前に、早急に家族と率直に話し合ったり、職場の上司などに相談する必要があります。家事の負担が多ければ、配偶者に協力してもらう必要があります。
介護の必要な親がいる場合には子供が祖父母の介護を一部手伝うことも出来ると思います。両親の介護は子供にとって良い社会勉強となるかもしれません。子供へ過度に負担がかからないよう病気の伝え方を工夫する等して家族で協力し合えば、がんの闘病生活を乗り切ることが出来ると思います。
一方、会社としてはがんを抱えた社員に可能な限り職場としての援助を行い、少しでも安心を与えることが大切だと思います。がんを抱えた社員が受診のために出勤時間が遅くなったり休暇を取ることもあるでしょう。職場の上司は社員ががんと診断され治療が始まった場合には、どの程度の頻度で休暇が必要となるのか、どの程度体に負担のかかる治療が行われるのか等を本人から少しでも聞いておけば、職場として対応し易くなると思います。
がん治療が始まると心配や気分の落ち込みが長引き、病的な不安感や抑うつ気分、不眠等が生じることがあります。精神的に不安定なために患者さんはがんの治療に対して消極的となり、通院や内服がずさんになったり、稀にがん治療を拒否することがあります。不眠で一睡もできない、不安で何も手につかず日常生活に支障を来す、気分がゆううつで何もやる気がしない等の症状が続く場合でも、通院による精神療法や抗うつ薬・睡眠薬等の薬物療法、さらに家族を含めた心理療法など適切な精神科的治療により比較的短期間に症状が改善することがあります。
がんセンター、大学病院、地域がん診療連携拠点病院などがん治療を専門的に行っている病院でには精神科的問題も含めて包括的に相談できる窓口があります。迷った時は躊躇せずに主治医や各医療機関の担当窓口に相談することをお勧めします。
現在、手術方法を初め抗がん剤や放射線療法等の様々ながん治療が行われています。
各医療機関のがんの手術件数、治療成績、標準的な治療法等が一般に公開されつつあります。このようにがん患者さんにとって治療の選択肢が増えることは好ましいことですが、反って患者さんや家族が戸惑ってしまうことも少なくありません。
また、主治医のがん告知によって患者さんに不安や動揺、精神的苦痛が生じる場合も多いでしょう。これらもがんの医療において大きな問題です。
がん医療は複数の専門領域に及んでいます。医師ばかりでなく、看護師や薬剤師、ソーシャルワーカー、時には臨床心理士や行政の専門家が関わって最適な治療を行います。そのなかで精神科医療が果たせる役割は限られていますが少なくはありません。うつ病を初め精神疾患や心理社会的問題に対して精神科医師が介入することにより、治療をする上での負担が少しでも軽減し、がん患者さんが前向きに治療を続けられること願っています。
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