米国の報告によると、うつ病の生涯有病率(一生のうちでうつ病になる人の割合)は15%で、男性が5-12%女性が10-25%でした。つまり、女性のうつ病患者数は男性の約2倍で、一般的にうつ病のかかりやすさは女性が男性の2倍と考えられています。因みに日本において自殺による死亡者数は男性が女性の2倍以上であることから、うつ病と男性が結びつきやすいのかもしれませんが、うつ病は女性に多い病気と言えるのです。
男性より女性にうつ病が多い原因として、妊娠出産、育児、そして閉経等の女性特有の身体的・心理社会的な問題が考えられます。従って女性社員がうつ病になった場合は、様々な点で男性の場合と異なった対応や配慮が必要になります。
Bさんは40代女性で会社に勤務されています。3歳年上の夫、高校生の長女、そして中学生の長男と4人で暮らしています。最近、中学生の長男は母親の言うことに反抗することが多くなりました。学校から帰っても宿題をしようとしないため、しばしばBさんは長男に注意していました。言うことを聞かない子供に対して、怒鳴って叱ることが多くなりました。Bさんは子供が自分の言うことを聞いてくれないこと、そのことで自分の感情がコントロールできずイライラしてしまうこと、時に気分が不安定になって泣き出したくなってしまうことに悩むようになりました。
次第に、朝起きると鉛のように体が重くなり、仕事へ行くことが億劫になりました。Bさんは会社に行っても仕事がはかどらず、簡単なミスが増えるようになりました。夫はこのところ仕事で忙しく残業で帰宅が遅いため、Bさんは子供のことや自分の悩みを夫に相談することが出来ませんでした。
職場で突然涙が出るようになり同僚に相談したところ、精神科を受診するようすすめられました。
まずは一人でクリニックを受診したところBさんは医師からうつ病と診断され、当分の間家事や仕事の負担を減らすよう指導されました。さらに抗うつ薬を勧められ内服することにしました。このことを夫に伝えたところ、夫はどのように対応して良いか分からず困惑した様子でした。自分の仕事のことで精一杯の夫は子供の教育や家事についてほとんど考える余裕がありませんでした。
Bさんは仕事を抱えながら何とか家事をこなしていましたが、気分の落ち込みやイライラは一向に改善しませんでした。子供達に自分のことは自分でするよう注意しましたが、積極的に母親の手伝いをするようなことはありませんでした。夫にも家事を多少は手伝うよう頼みましたが帰宅が早くなることはありませんでした。何だか自分ばかり苦しんでいるような気持ちになり、Bさんは情けなく感じました。
憂うつな気分ややる気の無さはますますひどくなるばかりで、とうとう出勤することがままならなくなりました。上司や同僚にたいして申し訳ない気持ちで一杯になりながら、責任感の強いBさんは無理矢理仕事を続けようとしました。Bさんは今の辛い状況を医師に相談すると、「そのような状況を続けても、病気はなかなか良くならないと思います。一旦仕事を長期的に休んで自宅療養する方がよいと思います。それと、ご主人はBさんのご病気について充分理解されていないかもしれません。ご主人に説明するため、次回の受診時にはご主人も一緒に来ていただけないでしょうか。」と言われました。
その後Bさんは夫に、家事がこなせず仕事へ行けないくらい病状は芳しくないことを訴えました。さらに、医師から治療には家族の協力が欠かせないので夫に一緒に受診してもらい病気の説明をしたいと言われていることを伝えました。夫はBさんの辛い状況をようやく理解してくれたようで、仕事を休んでBさんの病状について主治医から説明を受けることにしました。
診察では夫は医師から、「うつ病の治療の効果が見られないのは仕事や家事の負担が多いことが原因の一つとして考えられます。負担を軽減するため家族が病気について理解し、出来る限り家事などの協力をする必要があると思います。」と説明されました。さらにBさんには、「これ以上頑張って出勤しようとしても、かえって回復を妨げるので一旦自宅療養する方が賢明だと思います。」と、再度自宅療養をするよう助言されました。
仕事を休むべきか迷っていたBさんは、その後上司に相談したところ、しばらく自宅で療養することになりました。夫や子供達と話し合い、家事の負担を軽減するため出来る限り家族が自分のことは自分ですることにしました。さらに、夫は極力残業を控えるようになり、週末には積極的に家事に協力して、Bさんがゆっくり自宅で療養できるよう努めました。
Bさんはうつ病と診断され治療開始までは比較的スムーズに運びましたが、その後の治療ではなかなか病状が改善しませんでした。
一般的に、うつ病の患者さんが抗うつ薬で治療を始めた場合、効果が認められるのはおよそ50~75%で、効果が見られるまで8~12週間はかかります。つまり、うつ病の治療には時間がかかります。残念ながら初期の治療がうまくいかない場合には、治療が長期化することもあります。うつ病は比較的良くなる病気と言えますが20~30%は慢性的に症状が残ってしまいます。そうならないために治療初期に中途半端な対応をせずしっかり治療することが大切です。
Bさんの場合には精神科の治療が始まっても家族の協力がなかなか得られず、仕事や家事など全てを今まで通り自分一人でこなそうとされています。当初は家族にうつ病を理解されず、負担は一向に減りませんでした。かえって孤独感から病状が悪化しています。精神科へ通院したらうつ病が治るわけではないので、可能な限り治療に適した環境として患者さんの負担を軽減するよう家族の協力は不可欠です。家族(特に配偶者)の協力がなかなか得られない場合には、医師から配偶者等に病気の説明をしてもらうことが有効な場合があります。
Bさんの場合は子供が高校生と中学生で理解力は充分あるため、子供らに対して母親の病状を説明し治療に協力するよう伝えることも出来ると思います。出来る限り治療に協力しようとする家族の姿勢が感じられれば、Bさんも孤独にならず治療に前向きになれると思います。
既婚の女性にとって、家庭はもう一つの職場と考えられます。このことは精神科の治療をする上で男性と大きくに異なります。つまり、既婚の男性が病気で仕事を休んだ場合には家庭は療養の場となることが多いです。しかし、多くの働く女性にとって仕事を休んでも家事をすることは避けられないのが現状だと思います。会社を休んで自宅療養をしたとしても完全に仕事から解放さず、うつ病からなかなか回復できないことがあります。特に乳幼児の子供がいる場合には、自宅でも全く休養が取れないことは容易に想像がつきます。
このような場合は早急に配偶者をはじめ家族に協力してもらい、家庭での負担を減らす必要があります(特に配偶者の理解が重要だと思います)。幼い子供がいる場合は可能であれば親(特に母親)に家事や育児の協力してもらう方が良いと思います。親の協力が得られない場合には、託児所や保育所をフルに活用することも必要になります。
これらの方法を取っても十分な改善が見られず、さらに悪化したり重症化する場合には実家で療養したり、精神科病院へ入院をして治療に専念していただく場合もあります。
女性にあって男性にない大きな出来事の一つに妊娠出産があります。
妊娠出産は人生における貴重な体験と言えますが、分娩には心理的ストレスや肉体的苦痛が伴い、その後には育児という重大な作業が待っています。精神医学において産褥期精神病や産褥期うつ病という病名があります。産褥とは出産後6~8週間で妊娠による母体の変化が妊娠の前に戻るまでの期間です。
これらの病名から分かるように女性にとって妊娠出産は精神障害の好発時期と言えます。出産後約13%の女性にうつ病が認められると言う報告があります。
好発時期は分娩後2~3週後から2~3ヶ月で「里帰り出産」後に発病しやすいという報告もあります。さらに、出産後母親が精神的に不安定になった場合、子供の情緒や発育への影響も心配です。ネグレクトや虐待、さらには嬰児殺しなどの深刻な問題へ発展する可能性もあり、産後うつ病は社会的にも大きな問題です。このような場合には保健所や児童相談所などの行政機関の関与が不可欠になります。
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