うつ病 (大うつ病性障害・単極性うつ病)

不安やうつの事例

患者の気持ち

はじめに

うつ病の症状とは

うつ病のため精神科に通院し、治療に専念するために自宅療養をすることになった職員がいるという職場は少なくないと思います。このような場合、家庭や職場では

「どの程度症状が良くなれば復職出来るのだろうか。」
「復職の時には、どのように職場が受け入れれば本人の負担が少ないだろうか。」

等と悩まれる場合は多いと思います。
私は精神科医師という立場から、自宅療養となったうつ病の患者さんが復職することになったケースを紹介し、うつ病の患者さんの復職における家族や職場の対応とその注意点について述べたいと思います。

うつ病が改善し復職することになったケースを考えてみましょう

藤沢市在住のAさんがうつ病と診断されて自宅療養となり、早くも2ヶ月が過ぎました。
Aさんは医師の指示通り通院をしていますが、未だに元気が出ず、ゆううつな気分は無くなっていません。うつ病が良くなり職場に戻れるか心配になりますが、Aさんは家族に支えられながら医師の助言に従って焦らずにじっくり治療に専念しました。

治療を開始して3ヶ月がたった頃には一人で近所に買い物へ行ったり、電車に乗って家族と出かけることが出来るようになりました。次第に不眠も無くなり、長時間の散歩や読書も無理なく少しずつ出来るようになりました。気分が落ち込む時間は自宅療養を始めた頃と比べ徐々に短くなりました。以前感じられた動悸や疲れ易さもほとんど無くなりました。最近は病気や仕事のことをくよくよ考えても仕方がないと開き直れるようになりました。

Aさんはいつものように診察を受けると、医師から「そろそろ復職について考えてみましょうか。職場に戻ってみようかと考えることはありますか。」と尋ねられました。Aさんは最近1ヶ月間の日常生活ではほぼ問題なく過ごせており、以前の自分にかなり近づいてきたと感じていました。しかし、職場へ戻るまでの自信はまだ充分有りませんでした。
Aさんはそのことを医師へ素直に話すと、医師からはこう言われました。
「職場へ戻る自信がつくまではもう少し時間がかかると思いますが、出勤時のスケジュールに合わせて日常生活を送ってはどうですか。体力に無理がなければ奥さんの家事を積極的に手伝ってみてはいかがでしょうか。」

早速Aさんは次の日から朝7時に起床し、勤務時と同じ通勤経路で会社の近くまで何度か行ってみることにしました。また、家の清掃や食器洗い等の家事を無理の無い範囲ですることにしました。家事を手伝って1ヶ月が経つ頃には毎日家事をこなしても、ほとんど疲れることが無くなりました。

徐々に体力や集中力が回復し復職の自信がついてきたことを医師に伝えると、「そろそろ復職の準備として、試験出勤をしてはいかがでしょうか。」と言われました。医師は1~2週間毎に徐々に勤務時間を延ばして行き、職場に慣れることを提案しました。Aさんは医師から言われた試験出勤について上司に説明し、職場の協力を得ながら試験出勤をすることにしました。

うつ病の症状とは

当初は1日3時間軽度の作業を2週間こなしました。初めは緊張し疲れを感じましたが、徐々に慣れたため勤務時間を1日5時間に延ばしました。1日5時間勤務をしてもあまり疲れを感じないため2週間後には1日8時間勤務したところ、昼頃からひどく疲れを感じ胸が苦しくなりました。

診察の時にAさんは最近の自分の症状を説明し、「今はまだ復職することが無理でしょうか。」と不安な気持ちを医師に伝えたところ、医師から「このようなことは試験出勤の時にはよく見られることです。少し勤務の負担が多いので1日の勤務時間を5時間に戻しましょう。焦らなくても大丈夫です。」と言われました。医師の助言通り2週間だけ1日5時間勤務へ戻したところ勤務の負担感がほとんど無くなりました。

その後、再び勤務時間を1日8時間に戻しても負担はあまり感じられず、順調に試験出勤を終了することが出来ました。焦らず時間をかけて試験出勤を行うことでAさんは無理なく復職できるようになりました。

復職における家族の対応とその注意点

患者さんの自宅療養が数ヶ月に及ぶと、家族はしばしば復職について焦ってしまいます。
経済的なことや、本人や家族の将来を考えると早く職場に戻って欲しいと考えてしまうのも仕方がありません。しかし、復職は患者さんにとって最も負担がかかるため、慎重に対応する必要があります。無理に復職しようとすると病状が再び悪化し、せっかく復職の手前までこぎ着けたのに治療初期の病状に戻ってしまうこともあります。

日常の生活が送れるからといって復職できるとは限らないので、復職のタイミングにつては主治医に相談する必要があります。焦って復職に失敗するという残念な事態を避けたいものです。そうならないためにも、慎重に時間をかけて試験出勤をすることお勧めします。私見出勤が一時的にうまく行かないと時に家族は悲観的になってしまいますが、主治医に相談しながら焦らずに患者さんを支えることが大切です。

復職における職場の対応とその注意点

試験出勤の話しが患者さんや主治医から出ると、職場は患者さんをどのように受け入れるのかを検討しなくてはなりません。本人と少しずつ接触し不安を和らげることも大切です。主治医が具体的な試験出勤のスケジュールを立てた場合には、それに添って本人の負担が少ない適度な業務を用意する必要があります。

患者さんは職場の人に対して休んでいることに強く責任を感じています。つまり、試験出勤の時には、本人は職場にいるだけで相当緊張を強いられます。周囲の職員が思っている以上に職場にいることが苦痛な状態であることを理解する必要があります。試験出勤の当初は責任が少ない単純な作業が良いでしょう。復職後も当分は重大な責任の伴わない、出来れば本人が慣れている仕事をしてもらうのが良いでしょう。

Aさんのように試験出勤の途中で疲労感が高まり、うつ症状が一時的に悪くなることがあります。その様な場合には勤務時間を一旦短くして、疲労感を軽減できるよう対応することで、試験出勤が上手く行くことがしばしばあります。このように一見試験出勤が上手くいかなくなったように見える場合には、職場も社員が復職できるか不安になりますが、家族と同様に焦らずに患者さんを支える必要があります。

最後に、復職した後半年から1年程度は残業をさせることはお勧めできません。しかし、実際の業務上残業が避けられない場合もあるため、適宜主治医に相談することをお勧めします。

患者にとって負担の少ないよう対応する

復職にあたり、個々の患者さん、病状、時に家族や職場の考え方によって対応が異なることもあります。無理なく復職するためには、可能な限り患者さんに負担が少ない方法をとることが近道です。どのような対応をする場合にも、患者さんの負担感が大切になるでしょう。対応の仕方が分からない場合には本人に率直に尋ねてみることが良い場合もあります。

復職に限らずうつ病の治療をするうえでは、患者を支え続ける家族に負担が少ないことも重要です。家族が燃え尽きてしまっては長期にわたり適切な治療を行うことが出来なくなります。職場の方はご本人のみならず、出来ればご家族にも配慮することをお勧めします。

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