摂食障害  Eating disorders

不安やうつの事例

患者の気持ち

摂食障害について

摂食障害には主に神経性無食欲症(AN: anorexia nervosa)神経性過食症(BN: bulimia nervosa)があります。食事や体重増加に対する不安や恐怖、歪んだ認識によって、異常な行動とともに著しい痩せや体重増加などの身体症状を認めます。

神経性無食欲症(AN: anorexia nervosa)

痩せることや食事のカロリーに対する異常な拘り、痩せるために過激な運動をするなどの徹底した努力も見られます。一方、体重が増えることに対する強い恐怖心があるため、体重の一時的な増加により不安感や抑うつ気分が出現します。本人の自覚は乏しく異常な痩身を「太っている。」と感じていることもあります。診断基準は下記のとおりです。

10~20代の若い女性に多く、発症率は男性の10~20倍に上ります。痩せることが求められるようなスポーツ、モデル、バレリーナなどで特に高くなります。長年治療を受けていない場合や治療により改善しない場合には、40~50代まで痩身となる患者さんもいらっしゃいます。

治療としては、精神療法や行動療法が中心となります。2次的なうつ症状に対して抗うつ薬を使用することもあります。精神療法では、痩せによって生じる生活上の困難に焦点を当て、治療への動機づけを行います。さらに、原因となる心理的な問題、家族関係の問題などを精神療法のテーマとして扱い、心理的な問題の解決を促します。

低栄養に伴う低血糖や貧血、歩行困難などの身体的症状など疾患に対する正しい理解を促します。低栄養状態の場合には生命の危険が生じることを理解してもらい、目標となる体重を設定し体重を増加させるよう促します。

通常治療は長期に渡るため、家族や精神科主治医、必要に応じて内科担当医など医療関係者が辛抱強く支える必要があります。

ICD-10における神経性無食欲症の研究用診断基準

  1. 体重減少は(小児では通常のように体重が増加せず)、標準体重あるいは年齢と身長から期待される体重より少なくとも15%下回っていること。
  2. 「太るような食物」を自ら避けることによって起こる体重減少。
  3. 肥満に対する病的な恐怖を伴った太り過ぎというボディーイメージの歪みがある。このために体重の許容限度を低く設定して自らに課す。
  4. 視床下部-下垂体-性腺系を含む広範な内分泌障害が顕在化する。それは、女性では無月経によって、男性では性的な関心と性的能力の喪失によって確認される(明らかに例外的なものとして、避妊薬に代表されるホルモンの補充療法を受けていると、神経性無食欲症の女性でも持続的な性器出血をみることがある)。
  5. 神経性過食症の基準A, Bを満たさないこと。

神経性過食症(BN: bulimia nervosa)

食事をすることに対して制御不能となり、数時間に渡り食事をしたり、大量の食物を摂取するなどの行動が見られます。その後に体重増加の恐怖から、自分で嘔吐したり(自己誘発嘔吐)、下剤を大量に使用する行動(下剤乱用)が見られます。体重は神経性無食欲症ほど減少せず正常範囲内で変動することが多いですが、肥満となることもあります。過食後には後悔し自責感から無気力感や抑うつ気分が生じます。診断基準は下記の通りです。

海外の報告では若い女性の1%前後にみられ、3%以上という報告もあります。精神疾患の合併として、うつ病、強迫性障害、社会恐怖などの不安障害、パーソナリティ障害、アルコール・薬物依存症が認められることがあります。

神経性無食欲症と同様、治療としては疾患を正しく理解し、食事を摂る行動の適正化を目的として精神療法や認知行動療法がおこなわれます。過食を抑えようとして何度も上手く行かなかったため挫折感がしばしば見られますが、失敗することは問題ではないことを伝え、過食行動を抑えるよう動機づけを行います。認知行動療法として体重や体型に対する歪んだ認識を修正します。家族との関係を精神療法で取り上げる場合もあります。

消化器症状等の身体症状に対しては必要に応じて対症療法を行いつつ、不眠、不安、抑うつ症状などの精神症状に対して精神科薬物療法がおこなわれることがあります。過食や自己誘発嘔吐などの異常行動に対してSSRIなどの抗うつ薬の効果が報告されており使用されることもあります。

ICD-10における神経性過食症の研究用診断基準

  1. 短時間の間に大量の食物を消費する過食エピソードを繰り返すこと(週2回以上の過食が3か月間以上)。
  2. 食べることへの頑固なこだわり、および食べることへの強い欲求または強迫感(渇望)。
  3. 患者は次に示すうちの1項目以上のことで、食物の太る効果に対抗しようと試みる。
    • (1)自己誘発の嘔吐
    • (2)自発的な下剤使用
    • (3)交代制にみられる絶食の時期
    • (4)食欲抑制薬や甲状腺製薬または利尿薬のような薬物の使用。糖尿病患者が過食症になると、インスリン治療を故意に怠ることがある。
  4. 肥満に対する病的な恐怖を伴う、太り過ぎというボディーイメージの歪み(結果的にやせ気味のことが多い)。

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