
身体の病気とこころの病気はしばしば関連して生じます。
何らかの原因で痛みが続いたり、眠れない日が続いたりすると、不快感や恐怖心が強まることがあります。特に、強い痛みが長期間にわたる場合、不安や抑うつ症状などの精神症状が生じやすくなります。
また、心筋梗塞や狭心症などの心疾患を経験すると、胸の違和感や軽い痛みに対しても、「また発作が起きるのではないか」という恐怖心を強く抱くことがあります。
気管支喘息では、発作を繰り返すことによる不安から、パニック発作がみられることもあります。
そのほかにも、高血圧症や糖尿病などの生活習慣病、認知症やパーキンソン病、脳卒中などの神経疾患、甲状腺疾患などの内分泌疾患において、うつ病の発症率は高いことが報告されています。
身体疾患に伴う精神症状の治療について
身体疾患に伴って、パニック障害、不安障害、うつ病が生じた場合には、抗不安薬やSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤)などの抗うつ薬を用いることがあります。必要に応じて、睡眠薬を併用する場合もあります。
これらの薬物治療により、不眠や不安感、胸部の違和感が比較的速やかに改善し、抑うつ症状が軽減することがあります。
身体の病気とこころの状態の両面から治療を行うことが重要です。
身体疾患別にみたこころの問題
- 慢性疼痛と精神疾患
- 心疾患(心筋梗塞、狭心症、不整脈など)と精神疾患
- 呼吸器疾患(慢性呼吸不全や喘息など)と精神疾患
- 内分泌疾患(糖尿病、甲状腺疾患など)と精神疾患
- 神経疾患(認知症、パーキンソン病など)と精神疾患
1.慢性疼痛と精神疾患
慢性的な痛みを抱えている患者さんでは、抑うつ症状が見られることが多く、慢性疼痛患者におけるうつ病の生涯有病率は50%以上とする報告もあります。
まずは身体的な疼痛の原因に対する治療が優先されますが、併発する不安、不眠、抑うつ症状に対して治療を行うことで、痛み自体が軽減できることがあります。適度な運動により身体の痛みや精神的な辛さが和らぐ場合もあります。
一方で、うつ病に伴って痛みを訴えることも少なくありません。この場合、検査を行なっても身体的な異常は認められない、あるいはあってもごく軽度であることが多く、一般的な鎮痛剤(痛み止め)は改善しません。
うつ病の治療を行うことで、痛みが改善することがあります。
2.心疾患(心筋梗塞、狭心症、不整脈など)と精神疾患
心筋梗塞や狭心症では、突然これまで経験したことのない激しい胸痛に襲われます。急性期の治療を終え日常生活に戻っても、動悸や胸の違和感が残り、不安が持続することがあります。再発への恐怖から不眠がみられることがあり、倦怠感や意欲低下などの症状が続く場合もあります。
心筋梗塞後18か月間におけるうつ病の発症率は15〜30%との報告されています。
また、中等症以上のうつ病では心筋梗塞を合併しやすく、死亡率上昇との関連も報告されています。
心疾患の治療中、内科医がうつ病の併存に気づきにくいこともあり、精神症状への早期対応が重要です。
3.呼吸器疾患(慢性呼吸不全や喘息など)と精神疾患
呼吸器疾患による息苦しさは、不安感を強め、パニック発作や不安発作を引き起こすことがあります。
低酸素血症による倦怠感とともに、抑うつ気分、意欲低下、興味の喪失などがみられることもあります。
低換気症状がある場合には、呼吸不全が悪化するおそれがあるため、睡眠薬や抗不安薬の使用は慎重に行う必要があります。一般に、SSRIなどの抗うつ薬は呼吸抑制が少なく、比較的安全に使用できるとされています。
4.内分泌疾患(糖尿病、甲状腺疾患など)と精神疾患
糖尿病とうつ症状との関係はしばしば指摘されています。抑うつ症状や意欲低下により、食事療法や服薬が中断され、血糖コントロールが不安定になることがあります。
精神症状への治療を並行して行うことで、糖尿病の管理が改善することが期待されます。
また、甲状腺機能の異常により、動悸、倦怠感、抑うつ症状が生じることがあります。精神症状が前面に出ている場合でも、甲状腺疾患が疑われる際には、甲状腺ホルモンの検査が重要です。
5.神経疾患(認知症、パーキンソン病など)と精神疾患
アルツハイマー病や血管性認知症などでは、認知症の発症に先行して、うつ症状や不安症状が現れることがあります。初期に精神症状が強い場合、認知機能の評価が難しく、診断が遅れることもあります。
パーキンソン病をはじめとする神経変性疾患では、運動機能の低下や病状の進行に対する不安から、抑うつ気分や不安症状がしばしば認められます。
うつ病を併発すると治療意欲が低下し、希死念慮が生じることもあるため、発症初期から精神科的な関わりが重要となります。
